医療とlife

このサイトは,あなたやあなたの身近な人が,人生で避けては通れない問題,「健康と病気」にどのように対処していくかについて,医療データベースとしてまとめたものです.

これまで病気のことで困ったことはありませんか.そもそも病気自体が困りものであるのですが,それに対処する過程にも多くの困り事があります.病院の待ち時間が長いとか,薬があわないとか.医療をとりまく問題はさまざまですが,トラブルの多くは医療者と患者・家族間のすれ違いです.またコンビニ受診による医療者の負担,医療費の増大なども取り上げられています.

これらの課題を解決するためにこの医療データベースを作成しました.このデータベースが日本中に浸透し,活用されることによって,主に次の3つを目指します.

・医療者との適切なコミュニケーションにより,満足度の高い医療が受けられる

・病気を必要以上に怖がらなくなり,適切に対処できるようになる

・医療者の負担が減る

自分の体について知るということは,人として最も根源的なもので,個人的には義務教育にふさわしいと思っていますが,そうはなっていません.識字率が低かった時代には,本を読むということは,一般の人々にとって非常にハードルの高いことでした.しかし今では教育が行き届いたおかげで,本を読むことは当たり前となっています.医療の知識においても,手洗いやうがいが風邪の予防に良いということは当たり前になってきています.そういった常識をひとつずつ増やしていき,誰もが適切に医療サービスを活用できる世界が訪れることを願っています.

なぜ,医療データベースが必要なのか.

さて,いままでこのような経験はありませんか?

Aさん

病院できちんと説明を受けたと思うけど,情報量が多すぎるし,ところどころ理解が追いつかなかった.結局言われるがままに治療を受けたけど,これでよかったのか心配.

Bさん

腰痛が続いていて医者にかかったけど,どこも悪くないと言われた.

Cさん

めまいを突然起こしたけど,何科にかかれば良いのかわからない.脳に重い病気がないか心配.

私は10年以上,脳神経内科医として大学病院で外来,入院患者の診療を行ってきました.上にあげたことはその中でよく遭遇した「医療あるある」の一部です.このような問題の背景には,にわかには解決しがたい構造的な問題が潜んでいると感じるようになりました.

医師と患者の医療知識のギャップ

Aさんの事象では,医師がもっと詳しく説明すればという意見もあれば,専門家の医師に任せるしかないといったような意見がでるかもしれません.どちらもある意味正しい意見と思います.しかし,前者に関しては,それぞれの患者さんの状態を全て正確にわかりやすく伝えるのにどれくらいの時間が必要かというと,1人に1時間以上かけてもなかなか難しいのが実情です.それもそのはずで,我々医師は,まず数年かけて医療の全体像を勉強・実践し,その後専門分野に分かれてさらに専門家として働いていくわけで,その内容を背景まで含めてたった1時間でマスターすることはもちろん不可能なわけです.

そのために我々のような専門家がいるわけですが,ここで問題なのは「医療の不確実性」です.後者の場合,全て専門家の医師に任せても,結果がうまくいくとは限りません.我々医師もそれをわかっており,そのために丁寧に説明し,患者さんが納得して治療方針を選択するという,「インフォームド・コンセント」(説明と同意)というステップを踏みます.

例えば投資を例にとると,詳しい専門家に相談して投資先を決めるとき,あくまで最終的な投資判断は自己責任です.未来は誰にも予測はできないからです.ここに投資すれば必ず儲かるという美味しい話は大抵詐欺です.医療行為が投資と似ている,というと語弊はありますが,専門家に相談して決めるというところは似ていると思います.投資家が勧める投資先が全て利益がでるとは限らないのと同じで,医療も医師が勧める治療が必ず良いものではなく,その治療選択をする背景,判断を共有して,納得して治療を受けることが重要となってくるわけです.

医療を適切に受けるには,きちんと理解することが重要であることをお話ししましたが,「わかってはいるけど,なかなかできない」というのが皆さんの本音ではないでしょうか.なぜ難しいのか,それは先ほどの投資と同様に,医療について体系的に学ぶ機会がほとんどないからです.今でこそ,投資に関しては自ら学ぶ人が増えて,そのコンテンツが増えてきていると思いますが,医療に関しては,断片的な知識が載っているだけで,全体像をつかむ情報が極めて少ないのが現状です.また情報を伝える医療者側としても,最も大事な話に重点を置いて話したいので,その前提条件についてはできれば知っておいてほしいというのが本音です.ご自身の専門職,または家事でもよいですが,自分がわかっていることを,その基本知識がない人に相談して決めていくということはとてもハードルの高いタスクであるということは想像に難くないのではないでしょうか.

例えば専業主婦が,あまり洗濯をしたことがない夫や子供に,洗濯をしてもらう場面を想像してみてください.洗濯をするときにはこの洋服はこの洗剤を使っても良いけど,こっちはだめで,この洋服はネットに入れて,こっちは乾燥機に入れても良いけど,こっちは干してほしくて,この服は伸びないようにこうやって干してほしい.これは手洗いで,うーん,説明するより自分がする方が早いな.でも,今回はやってもらおう...そして夕方,ふたを開けてみると,自分のお気に入りのワンピースが乾燥機でしわしわに.

医師が患者に説明するときも同じような構図となっています.医師はこの疾患は大体こういう治療をするけど,3割ぐらいの人はこの副作用がでるから,そのときにはこれに変えて,それでもダメならこっちの薬にして,あと,高齢だし腎臓の機能も悪いから,腎機能には注意して,肝臓の障害が出たらこの薬を使って,,,と,いろいろと頭の中では計画をたてています.その一つ一つの選択肢を全て1から説明するとなると,日が暮れてしまうので,いろいろと工夫して必要最低限と「医師が想定した」範囲の説明をするわけですが,それがいつもうまくいくとは限りません.わかっていると思っていることはどうしても省略してしまうので,思いもよらないミスコミュニケーションが起こります.

実際に起こった出来事の一例です.「けいれん」の発作を抑える抗てんかん薬を処方していたのですが,「けいれん」の再発がありました.薬をきちんと飲んでいるか確認したところ,説明時に抗てんかん薬をやめると痙攣発作が再発しますと言われたので,初めから飲まないと起こらないと考え,飲んでいなかったとのことでした.そのような解釈があるのかと愕然としました.

このことは,患者さんの理解力が悪いとか,医師がきちんと説目しなかったとかいう,単純な話ではなく,そもそも医師と患者の間に医療に対する知識のギャップが大きすぎるということが問題なのです.

医学に対する理解度のギャップ

さて,ここでBさんの事例を見てみましょう.Bさんは腰痛に悩まされていますが,病院で検査を受けても異常を見つけてもらえません.それであそこの医者はヤブ医者だなどという話でドクターショッピングを繰り返したりするわけです.

医師側の視点では,腰痛は確かにあるのだが,治療介入ができるような,「腰部脊柱管狭窄症」や「腰椎ヘルニア」などの明らかな病気がない状態だと診断します.それで,腰には明らかな病気はないので,姿勢の改善や腰痛体操などを行ってくださいと指導します.

ここでは,患者と医師の間には理解度のギャップがあり,それによって患者が不信感をもっているという構造があります.ここで不足している理解度というのは,個々の医学知識というよりはむしろ医学の限界に対する知識です.

病院というものは,何らかの病気をみつけ,その中で対処できる病気に限り,何らかの処置を行うということが得意な場所であって,みなさんのちょっとした不調に対処するなどの健康のトータルサポートを行なってくれる場所ではないのが現状なのです(もちろん色々と先進的な取り組みをしている病院もあるとは思いますが,あくまで一般論です).

とても腰痛に詳しい医師は,その医学で習うような疾患以上のことを知っていて,対処法などの知見がある場合もありますが,ほとんどの医師はそのようなことを勉強する機会はありません.医学知識に関して,医師の方がよくわかっているということは,誰しも想像できることですが,医師がどれくらいのことをわかっているのか,どういうことはわかっていないのかまで正確に把握している人は多くないと思います.

語弊を恐れずに言うと,医師は病気についての勉強はしますが,健康についてはほとんど勉強しません.以下のこともよく聞かれることです.

「何を食べれば健康に良いですか?」

「どうすれば頭がよくなりますか?」

「どんな運動をすればよいですか?」

結論としては「よくわからない」です.もちろん,一般的なことはわかります.喫煙や飲酒がどのような病気を起こすリスクがあるのか,寝たきりになるとどれほど弱るのか,どのような栄養素が欠乏すればどのような疾患になるのかなどはわかります.

しかし,疾患のない健康な人のさらなる健康にどのようなことをすればよいかということは,ほとんどわからない,言いかえると「医学的に証明されていない」ということです.

医学は主には西洋科学が進歩してできたものであり,医療行為の良し悪しは科学的に証明されて初めて実施されます.典型的にはランダム化比較試験といって,ある一定の病気を持った人に,Aという治療とBという治療をランダムに割り付けて,効果・副作用も含めてどちらがよりよいかを比較するというものが行われます.このような試験が複数行われ,再現性をもってよいと認められたものだけが,一般的な治療として受け入れられていきます.その効果の差が大きいほど,少数例で実証できます.逆にほぼ健康な人に対して,かつ影響の少ない介入を行う場合には,その差が非常に少なく,それを示すためには非常に多数の人の長年の協力が必要になり,それに伴い莫大な資金と労力がかかります.

例えば,「にんにくが体によいか」という疑問に答えるとしましょう.きちんと証明するためには,生まれてきた子供をふたつの群にランダムに割り付けます.

  • あなたは毎日にんにくを食べる生活をしてください,
  • あなたは生涯にんにくを食べないでください.

この人たちの健康被害の調査を生涯通じて行い,死亡時期に差がないかなどを総合的に調べる必要があります.80年ほどの研究期間で数万人程度の規模感でしょうか(これも過去の研究結果から試算する必要がありますが).

オールジャパンで莫大な研究費を注ぎ込んでもなかなか難しい研究で,そもそもそんなことする必要があるのかという問題に立ち返ります.実際の臨床研究は,何段階にもわけて,もっと具体的な事象を証明するという方法をとります(にんにくの中の〇〇という成分を1ヶ月摂取すると,〇〇という血液検査の値が下がるなど).

ここでわかってほしいのは,現代医学が集積した知識にも,非常に多くの限界があるということです.たとえ証明しようとすればわかることでも,多くの経済的,倫理的,人的など色々な制約が立ちはだかり,実際には証明不可能なことが多いのです.

医療知識を得るコンテンツが少ない

次にCさんの事例をみましょう.よくある症状のめまいですが,多くは「良性発作性頭位めまい症」という,耳の三半規管の不具合で,耳鼻咽喉科が主な受診先になります.今でこそインターネットなどで調べてこられる方もいらっしゃいますが,網羅的に記載されているのはwikipediaぐらいで,各疾患に関しては,さまざまな医師が独自に,忙しい中,時間を削って作成しているコンテンツぐらいで,それぞれに内容も質も異なるのが現状です.つまり,ここを調べれば,大体これぐらいのことがわかる,というようなものがないことが,調べにくくさせている理由の一つではないかと思います.最近では生成AIが答えてくれますが,まだ一般的な知識を返してくれるだけで,それで理解するのはなかなか難しいです.

Cさんは,突然の初めての出来事にとても怖さを感じています.怖さは多くの場合,無知から起こります.何らかの症状を訴える患者さんに,病状に対する説明を行うだけで,ずいぶんと良くなったとおっしゃる方がいます.人は話を聞いてもらうだけで,苦痛が和らぐというのも一つですが,もう一つは「自分の体が未知の脅威にさらされている」という恐怖が解消されることも一つの原因と思います.

例えば,知らない外国の人と初めて出会った人は,何か得体のしれない人で,何となく怖いという意識が生まれることはよくあります.それでも少し話して知り合いになれば,なんてことのない,自分と同じ人なのだなと実感するでしょう.知らないということは,それだけで怖さになります.

医師は出血を見ても,圧迫すれば止まるということがわかっているので,多少冷静に対処できたりします.もちろん自分が怪我をすると痛くて大変ですが.

みんなで作っていく医療データベース

このような現状を解決するためにこの医療データベースを作成しました.はじめは網羅とは程遠いものになると思いますが,順次拡充させていく予定です.

このサイトを運営する上で以下のことを意識しています.

  • 総論は楽しく勉強できるように心がける
  • 正確性より,わかりやすさを重視する.(小学校高学年〜中学生でも理解できるように)
  • より高度な専門知識に関しては,階層化して,別に記載する.
  • 気軽に質問できる町のお医者さん的な存在になる.
  • みんなで持続的に作り上げていく.

ハリソン内科学や各種ガイドラインなどをベースにして,医師にとってのみ重要な部分は極力削除し,自分やあの人がこんな症状で困っているのはなぜなのかを簡単に楽しく調べることができるものを目指します,これにより,この症状は自分で対処できるのか,病院に行った方がよいのか,とくに早く受診する方がよいのかを,自分で判断できるようになればと思います.また,医師と相談する際の共通言語をもてるようになればと思います.

この医療データベースは医療者の方々にも活用していただきたいと思っています.私自身はほとんどの時間を大学病院での勤務に費やしていたため,他の勤務体系についてはあまりわかりませんが,少なくとも大学病院の医師は,かなり時間に追われています.その中で多種多様な症状,病気と遭遇し,専門分野以外のことにも対処する必要がありますが,それを丁寧に調べる時間がないのが実情でした(それでも歯を食いしばって調べていましたが).その中で,医療者が専門外のことを簡単に調べるツールとしても使用してもらえればと思っています.

この医療データベースがもたらす未来

この医療データベースを充実させることによって,医療を取り巻く環境を変えて行きたいと思っています.みんなの医療知識が増えることによって,医療者と患者・家族が円滑にコミュニケーションできるようになり,医療に対する満足度があがり,また病気・体の不調に対して不必要に怖がらなくなり,適切に対処できるようになってくれることを願っています.

さらに,身近な人々の医療知識が上がることにより,コミュニティ内での医療に対する相談のクオリティが上がったり,医療者の病状説明を含めた負担が減り,またそれによって医療の質が上がったり,医療資源が適切に配分され,医療費が削減されたりするかもしれません.

私一人の力では難しいことですが,みなさんの力をお借りしながら,このような未来を実現できればと願っています.