感染症概論

感染症とは、「体の中」に細菌やウイルスなどの微生物が入り込んで悪さをする病気です。みなさんがよく経験する風邪やインフルエンザは感染症の中でもウイルス感染になります。この項では、感染症の全体像として

  • どのような微生物が感染するのか
  • どこが感染しやすいのか

について解説したいと思います。それぞれ具体的な病気については別項で説明します。

どのような微生物が感染するのか

感染する微生物の種類は以下のとおりです。

  • ウイルス
  • 細菌(いわゆるバイ菌)
  • 真菌(カビ)
  • 寄生虫

感染症の分類はこれらの微生物がどこに感染するかで決まります。例えば細菌が肺に感染すると、「細菌性肺炎」となり、真菌が肺に感染すると「真菌性肺炎」となります。それぞれの微生物の中にも種類はたくさんあり、例えば肺に感染しやすい細菌の代表は「肺炎球菌」です。そのためそこまで特定された場合の診断名は「肺炎球菌性肺炎」となります。

どこが感染しやすいのか

それでは次に「どこが感染しやすいのか」について解説します。

感染しやすい臓器は外と繋がっている「肺」と「腎臓」

どこでも感染はするのですが、構造上、感染しやすい臓器感染しにくい臓器があります。感染しやすい臓器は、外界と繋がっている場所です。

「体の中」は無菌状態

まず前提として、通常、人間の「体の中」には微生物はいません。いてはいけないのです。いやいや、腸内細菌叢とかありますよね、という人もいるかもしれません。しかし、ここでいう「体の中」というのは、人の皮膚・上皮に囲まれた、細胞や血液などが充満している部位(図のオレンジの部分)のことです。腸などの消化管はそこにトンネルのように繋がっている部位であり、上記の意味では「体の外」になります。つまり腸の中に菌がいることと、血液中に菌がいることでは、同じ菌でも全く違う状況になるわけです。腸の中にうじゃうじゃいる菌が少しでも体内に入り込んでしまうと、一転して高熱を出して重体になるわけです。

皮膚は優れたバリア

さて、この図をもう少し解説しましょう。外界にはさまざまな微生物がいます。そのバリア機能として最も重要なのは皮膚です。もし皮膚がなかったら、微生物が入りたい放題なので、すぐに感染症で死んでしまいます。皮膚が傷ついたときにはそこから微生物が入り込みます。そのため、怪我をしたときには清潔に保つ必要があります。

微生物が体に侵入する3つの経路:鼻・口、肛門、泌尿器

皮膚がきちんと機能している場合は、微生物はそれ以外の穴から入り込みます。人に空いている穴で主なものは、鼻・口、肛門、泌尿器です。耳も空いていますが、一応鼓膜で閉じています。鼻・口から体の奥にいくと、肺、胃があり、肛門からは大腸、泌尿器からは膀胱・腎臓につながります。胃には胃酸があり、細菌などの微生物を殺菌する作用があります。つまり、細菌などが体に入り込もうとしたときに、入りやすいのはこれらの鼻・口、肛門、泌尿器の三つの通路に絞られるというわけです。

通路の途中での感染(上気道炎・膀胱炎)と奥での感染(肺炎、腎盂腎炎)

鼻・口から肺までの通路の上部を上気道といい、ここに感染すると「上気道炎」になります。よくある風邪で喉が痛いという状態です。膀胱もまだあくまで「体の外」なので、ここに菌が侵入して「膀胱炎」になっても、少し頻尿となるだけで全身としては大きく問題となりません。しかし、肺と腎臓まで来てしまうと、これらの臓器は血流が豊富ですぐに体の中につながっています。そのため、全身性の発熱などを伴う重症の感染症となります。そのため、よくある感染症としてはほとんどがこの肺(肺炎)と腎臓(腎盂腎炎)になります。

肺炎

肺炎を起こす微生物はほとんどが細菌です。通常の生活をしながら起こる市中肺炎では、先ほどの肺炎球菌やインフルエンザ桿菌などが多くなります(ちなみに、ウイルスのインフルエンザと細菌のインフルエンザ桿菌は全く別物です)。新型コロナ(COVID-19)は肺炎を起こしやすいウイルスですが、それ以外のウイルス感染は上気道炎などで終わることが多く、肺炎まで起こることは、多くありません。

この市中肺炎と異なる原因で起こる肺炎で多いのは、「誤嚥性肺炎」です。別の病気で食べ物を飲み込む能力が低下した場合に、食べ物が誤って肺の方に入ってしまうことによって起こる肺炎です。こちらは感染の治療と並行して、飲み込み力(嚥下機能)の低下に対する治療が必要となってきます。

腎盂腎炎

もう一つの多い感染症として腎盂腎炎があります(腎盂というのは腎臓から尿管につながる間の器官の名称です)。膀胱炎とともに、尿路に感染することなので、広い意味で「尿路感染症」ということもあります。とくに女性では泌尿器が短いので、起こしやすいとされています。尿が1日1L程度、十分に出ている場合は、膀胱に溜まった尿に細菌がいても、適宜排出されます。しかし、尿量が減って膀胱内に少量の尿が長時間溜まった状態になると、細菌が繁殖し、感染しやすい状態となります。また膀胱に尿が溜まりますが、通常その尿は腎臓に逆流しないように逆流防止機構が働いています。しかしその機能が破綻した場合は逆流を起こすようになり、尿路感染症をさらに起こしやすい状態となります。

その他の感染症

  • 髄膜炎・脳炎
    • その他の感染症の中で重篤化しやすいものとして、髄膜炎・脳炎があります。脳やその周辺に菌やウイルスが侵入してしまい、発熱、頭痛、意識障害などをきたします。有名なヘルペス脳炎というウイルス性脳炎では異常行動などを起こすことがあります。命に関わる病気なので、すぐに医療機関の受診が必要です。
  • 腸炎
    • 腸炎というのもよく聞くものと思います。こちらは先ほども言った通り、口から入った細菌は胃酸でかなり防御されるのですが、ウイルスは通り抜けてしまい、下痢・嘔吐などをきたします。食中毒は胃酸でも処理しきれないような細菌が侵入してしまったときに起こります。こちらも種類によっては重症化することがあります。通常のウイルス性の下痢であれば、脱水にならないように下痢で出た分しっかり水分補給することで、時間をかけて自然と治ることが多いです。
  • 中耳炎
    • 中耳炎は子供のころにはよく起こり、大人になると起こりにくいということは経験すると思います。耳の感染症なので、耳の穴から細菌が入ると思うかもしれませんが、実は口の中から耳に繋がっている管(耳管)を通って感染することがほとんどです。子供はこの耳管が短く直線的であるために感染しやすくなります。大人で誘因なく中耳炎をきたした場合は、癌が潜んでいる場合があるので、耳鼻科受診をお勧めします。

治療

  • ウイルス感染
    • 風邪(感冒)を代表とする軽症のウイルス感染症は、基本的には自分の免疫力で自然に改善します。風邪薬というものがありますが、これはあくまで発熱や喉の痛み、鼻水、痰などの症状を和らげる薬であり、ウイルスをやっつける抗ウイルス薬ではありません。抗ウイルス薬として存在するものは限られており、一般的には新型コロナウイルスやインフルエンザウイルス、ヘルペスウイルスに対する治療薬ぐらいです。
  • 細菌・真菌・寄生虫感染
    • 一方で、細菌、真菌、寄生虫に関しては、それらをやっつける治療薬を使わないと治らないことが多いです。細菌に対しては抗生剤、真菌に対しては抗真菌薬、寄生虫に対しては抗寄生虫薬を使います。細菌の中でも特殊な結核に対しては、抗結核薬を使います。微生物の種類や感染した臓器によって、どの薬剤を使うかを決める必要があり、これは医師にお任せするしかありません。

勘違いしやすいこととして、風邪のときに抗生剤を出されることがあると思いますが、抗生剤は風邪の原因であるウイルスをやっつける作用はありません。風邪のときに抗生剤を処方されるのは、ウイルス感染なのか細菌感染なのかわかりにくい場合や、ウイルス感染で弱ったところに細菌感染を起こすことを予防するためといった理由があります。ただし、最近では抗生剤の使いすぎによって、抗生剤が効きにくくなっている細菌(薬剤耐性菌)の出現が問題となっており、むやみに抗生剤を処方しないように呼びかけられてきています。

まとめ

以上、感染症についての概要を説明しました。「体の中」には基本的には微生物はいないこと、微生物が「体の中」に入りやすい場所として肺と腎臓が代表的であること、ウイルス感染には抗生剤は効かず対症療法が主であることなどを説明しました。それぞれの疾患に関しては別項で詳しく説明する予定です。

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