目次
はじめに
MAO-B阻害薬は、レボドパ、ドパミンアゴニストとともに、パーキンソン病の初期から進行期までよく使われる薬です。どの薬もドパミンの刺激を強めるという意味では同じ効果があります。他の二つと比べて少し複雑な作用で効果を発揮します。特記すべきふたつのキーワードとしては、「神経保護効果」と「起立性低血圧」です。
MAO-B阻害薬の作用機序
ここは少し複雑な話なので、興味がなければ読み飛ばしてください。
MAOとはMonoamine Oxidase(モノアミンオキシダーゼ:モノアミン酸化酵素)のことです。そしてモノアミンとは、ドパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン、セロトニン、ヒスタミンなどの総称です。どこかで名前だけは聞いたことがあるんじゃないかなと思います。MAOとはつまり、ドパミンなどのモノアミンを酸化させる酵素です。これらの物質は酸化されると違う物質になるので、ドパミンが酸化されると、ドパミンではない物質になり、ドパミンの機能はなくなります。
そこで、さらにややこしいのですが、MAO阻害薬となると、そのドパミンが酸化されるのを阻害する、つまり、ドパミンが酸化されて減っていくのを防ぎ、結果としてドパミンが増えるということになります。MAOにはMAO-AとMAO-Bがあり、パーキンソン病の治療で使われるのはMAO-B阻害薬になります。
MAO-B阻害薬の良い点・悪い点
さて、難しい作用機序の話は置いといて、じゃ薬として結局どういう特徴があるのかというのが知りたいところです。こちらも良い点と悪い点について解説します。
良い点
作用時間が長い
MAO-B阻害薬も作用時間が長いことが特徴です。現在使えるMAO-B阻害薬は、セレギリン(商品名:エフピー)、ラサギリン(商品名:アジレクト)、サフィナミド(商品名:エクフィナ)の3種類です。いずれも1日1回内服でも1日以上効果は持続します(セレギリンは量が増えると添付文書上、2回に分けることにはなっています)。初期の治療にはもちろん、進行期においても底上げ効果によってオフの改善が望まれます。
神経保護作用の可能性
現在、パーキンソン病は動きをよくする対症療法が主で、根本的な治療、つまりドパミン神経が減っていくことを止めたり、ドパミン神経を増やしたりする薬はありません。その中で注目されているのがMAO-B阻害薬です。いくつかの臨床試験で、もしかするとMAO-B阻害薬がドパミン神経を保護して、減っていくのを抑制するのではないかという議論があります。いまだに結論はでていませんが、そうであれば良いなと思う次第です。
単剤で使用可能
MAO-B阻害薬のうち、セレギリンとラサギリンは他のレボドパやドパミンアゴニストと併用ではなく、MAO-B阻害薬を単剤で使うことができます。他の補助薬は基本的にはレボドパやドパミンアゴニストと併用することになっています。
悪い点
起立性低血圧を起こしやすい可能性
文献上はあまりMAO-B阻害薬の起立性低血圧を示すエビデンスは少なく、どちらかといえばドパミンアゴニストの方がその副作用として強調されています。しかし経験上はMAO-B阻害薬は比較的、起立性低血圧をきたすことが多い印象があります。
たまにある一例として、歩きにくくなってきたというパーキンソン病患者さんに、MAO-B阻害薬を処方したところ、余計に歩けなくなったということがあります。医師としてはそんなはずはないと思うのですが、やはりご家族に聞いても調子が悪いといいます。よくよく話を聞くと、立ち上がって歩こうとするとふらふらしたり、頭がぼーっとしたりして、歩けなくなるようです。つまり、動き自体が悪くなったのではなく、立ち上がったときに血圧が下がってしまったせいで、歩けなくなっているのです。そもそも「歩けなくなってきた」というのが、起立性低血圧が原因であることもたまにあります。ひどい場合には意識を失って転倒したりすることもあるので、注意が必要です。
起立性低血圧は意外と気づいていないことも多く、見逃されていることがあります。起立性低血圧は疑うことが大事で、疑った場合には寝た状態と立った状態で血圧を測り、その差が大きいかどうかを確認します。
そもそもパーキンソン病患者さんは、血圧を調節する力が低下して起立性低血圧を起こしやすくなっているので、薬と関係なく起立性低血圧を認める人もいますが、MAO-B阻害薬を中止することで、その症状が減り喜ばれることはしばしばあります。
抗うつ薬と一緒に飲めない
先ほど説明したMAOの阻害効果によって、MAOの一つであるセロトニンも酸化が抑制されます。そのため、同じようにセロトニンの代謝を阻害する抗うつ薬と一緒に飲むと、セロトニンが過剰になり、セロトニン症候群という副作用を認めることがあります。MAO-Bを阻害していても、MAO-Aが働いているので、間違って飲んでしまってもすぐに問題となる可能性が高いわけではありませんが、併用禁忌となっています。
逆にMAO-B阻害薬自体に抗うつ効果があるという報告もあり、症状と相性に応じて使い分ける必要があります。
チーズ効果
これも抗うつ薬の併用と似たようなことで、チーズなどの「チラミン」という物質が多く含まれている食品を多く食べた場合、チラミンもMAOで代謝されるので、MAO-B阻害薬でチラミンが体に溜まります。それによって激しい頭痛や動悸、血圧上昇などを認めることがあります。特定の食事をとったときに、そのような症状が出た場合は、医師と相談が必要で、それらの食品を避ける、もしくはMAO-B阻害薬を変更したりする必要があります。
まとめ
- MAO-B阻害薬は初期から使用可能
- 神経保護作用がある可能性があるが、まだ証明はされていない
- 長時間作用型で、オフの底上げが可能。
- 抗うつ薬との併用禁忌(ただしMAO-B阻害薬自体に抗うつ作用の可能性)
- チーズ効果に注意
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