「症候群」って何?

はじめに

みなさん、「症候群(シンドローム: syndrome)」という言葉は聞いたことがあると思います。でも、それをしっかり説明できる人は少ないのではないでしょうか? 病気を診断するプロセスを理解していないと、症候群はなかなか難しい概念です。そこで今回は、「症候群」について、病気の診断プロセスを交えてわかりやすく説明します。

病気の診断のしかた

以前にも病気の診断プロセスについて説明しました(詳しくはこちら:病気の診断プロセス)が、簡単に復習してみましょう。

患者さんが初めて病院に来たとき、もちろん患者さんが、「自分はこんな病気だ」と言ってくれることはありません。ではどのように病気を特定(診断)するのか。それには一定の診断プロセスがあります。いきなり「これだ!」といって診断するわけではないのです(いろんな経験をすると、プロセスをわかった上で、一発診断することはありますが、、、)。

病気の診断プロセス

  • 1. 主訴:まずは最も困っている症状を聞きます。
  • 2. 現病歴:そして、その主訴がどのような経過で起こってきたのかを聞きます。
  • 3. 身体所見:その主訴と現病歴を元に、どこにどんな異常があるかを確かめるために体の診察をします。
  • 4. 臨床診断と鑑別診断:それらの情報から、ある程度病名を絞ります。
  • 5. 検査所見:そして可能性の高い順にランキングづけをして、その中から一つの病気を確定するために、血液検査や画像検査などを追加します。
  • 6. 除外診断:ここで重要なのは、最も疑っている病気の根拠を探すだけでなく、それ以外の病気でない根拠も探すことです。
  • 7. 確定診断:これらの情報から最終的に病気の診断をします。

さて、ここで一つ難しい問題があります。世の中にはまだ、原因がわかっていない病気がたくさんあるということです。

病気の診断の難しさでざっくり分類(私見)

これから話す分類は、一般的に言われているものではありませんが、医師が病気をとらえる上でのイメージを分類というか、階層化したものです。

  • 1. ほぼ単一の検査結果から確定診断できる病気
  • 2. 様々な条件を組み合わせて確定診断できる病気
  • 3. 様々な症候の組み合わせから「症候群」としてとらえる病気

1. ほぼ単一の検査結果から確定診断できる病気

例えば、インフルエンザは、インフルエンザの症状があり抗原検査が陽性なら診断できますし、胃カメラで腫瘍が見つかれば胃癌と診断されます。こういった病気は「ゴールドスタンダード」と呼ばれる信頼性の高い検査で診断が確定します。

2. 様々な条件を組み合わせて確定診断できる病気

2つ目はもう少し複雑で、一つの病気として概念が確立してはいるものの、それを特定できる良い検査が少ない場合です。こういった場合はよく診断基準というものが提案されています。たとえば、全身性エリテマトーデス(SLE)という有名な病気の診断基準(正確には分類基準といいますが)を下記に示します(複雑なので一部省略)。

この診断基準を理解する必要はありませんが、いくつかを組み合わせないと診断できないという点が言いたいことです。たとえば、抗dsDNA抗体がゴールドスタンダードとなり、これが陽性なだけでSLEと診断できたら簡単なのですが、そうではないということが難しい点です。そのため、組み合わせ、例えば、抗核抗体と抗dsDNA抗体が陽性で、発熱、蝶形紅斑(顔の皮疹)があれば、SLEと診断できます。

例:<厚生労働省のSLE診断基準>
抗核抗体80倍以上、かつ、以下の合計10点以上
臨床所見
① 全身症状:38.3℃をこえる発熱(2)
② 皮膚粘膜:非瘢痕性脱毛(2)、口腔内潰瘍(2)、亜急性皮膚ループスや円板状ループス(4)、急性皮膚ループス(蝶形紅斑や斑状丘疹状丘疹)(6)
③ 筋骨格:関節症状 (6)
④ 精神神経:せん妄(2)、精神障害(3)、痙攣(5)
⑤ 漿膜:胸水または心嚢液(5)、急性心外膜炎(6)
⑥ 血液所見:白血球減少(3)、血小板減少(4)、自己免疫性溶血(4) 
⑦ 腎臓:0.5g/日以上の尿蛋白(4)、腎生検でクラスIIまたはVのループス腎炎(8)、クラスIIIまたはIVのループス腎炎(10)
免疫所見
特異抗体: 抗dsDNA抗体または抗Sm抗体(6)
補体:C3またはC4の低下(3)或いはC3及びC4の低下(4)
抗リン脂質抗体:抗カルジオリピン抗体、抗β2GPI抗体またはループスアンチコアグラント陽性を認める(2)

3. 様々な症候の組み合わせから「症候群」としてとらえる病気

さて、前置きが長かったですが、ここからが本題で「症候群」の説明です。症候群とは、その名のとおり、いくつかの症候が集まったものです。一般的に患者さんが自覚するものを症状(例えば、痛み、だるさなど)といい、医師が観察したものまで含めると症候(例えば、喉の赤みや反射の異常など)といいます。そして症候群とは、一連の症候が同時におこる特徴をもった病気のことを指します。

なぜこのような症候群という概念があるかというと、診断プロセスの1〜3までのところでこの判断ができるためです。この症候群という考え方から、さらに診断の精度を高めることができます。

例えば、ダウン症候群は特有の顔つき、筋緊張低下、知的発達の遅れ、心臓の病気などの症候の集まりがあった場合に疑われます。この場合は比較的簡単で、最終的には染色体検査をすると確定診断となり、先ほどの1に近い状態になります。

次に、ギラン・バレー症候群という病気はもう少し複雑になります。これは、2週ほど前の下痢や風邪症状に引き続き、急性の経過で、手足の筋力低下、腱反射低下などの症候が起こる病気です。この病気も抗ガングリオシド抗体という原因物質がわかってきていますが、それにも複数の種類があります。さらに、場合によってはどの種類も見つからないということもあります。つまり、ギラン・バレー症候群は、同じような症状経過をとるのに、違う原因の病気が混じっているということになります。しかし、日常的にはその一つ一つの原因別に治療するわけではなく、このような症候群の場合には同じような治療をするので、「症候群」という概念が役立ちます。

さらに症候群の違う使い方として、パーキンソン症候群というものがあります。これは、パーキンソン病という特定の病気に対して、パーキンソン病と似たような症候(動きの鈍さ、関節の硬さ、歩きにくさなど)をもつ、他の病気をパーキンソン症候群と総称します(進行性核上性麻痺、多系統萎縮症など)。パーキンソン病は脳のドパミン神経細胞内にレビー小体というものができる病気なのですが、他の症候群ではこのようなものはなく、それぞれの病気で原因は違います。

「症候群」と「病名」

このように、症候群とはあくまで「症候」の集まりに過ぎず、それだけでは一つの病気の確定診断にはなりません。ただし、すべての病気が確定診断できるわけではなく、「症候群」のまま治療することがあります。ただし、「症候群」という名前が付いている病気でも、さらに検査をするときちんとした「病名」に辿り着く場合があり、より正確な治療を受けられる場合があります。そのため、この区別をきちんとすることで、より良い医療を受けられる可能性がありますので、病気になったときには担当の先生にこの点についてよく聞いて理解することが重要です。

まとめ

  • 病気は問診や身体診察など、一定のプロセスを経て診断される。
  • 診察の過程で「症候群」であることが特定されると、診断の助けとなる。
  • 症候群とは、一連の症候の集合体であり、病名とは区別される。
  • 症候群がほぼ病名として扱われ、治療に進む場合もあるが、そうでなくさらなる検査で病名が確定される場合もある。

“「症候群」って何?” への1件のコメント

  1. […] *症候群の説明はこちら:(「症候群」って何?) […]

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