日本神経学会学術大会に参加しました。日本のトップエキスパート達の最先端のお話を聞けて、医療の進歩を実感することができました。
目次
- デジタル技術の進歩:mediVRカグラ
- 急性期神経疾患の終末期医療・緩和ケア
- 「神経は再生しない」は嘘?
- 多職種連携
- 神経学の歴史
- DE & I(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)
- まとめ
デジタル技術の進歩:mediVRカグラ
AIなどのデジタル技術の発展はやはりめざましく、今後さらに発展が期待されるなあと思いました。注目したデバイスのひとつは「mediVRカグラ」です。全ての症例がうまくいくとは限らないのかもしれませんが、mediVRカグラを用いたリハビリを20分ほど行うだけで、小脳失調や反側空間無視、痙性などが劇的に改善するという動画を拝見して、非常に驚きました。
急性期神経疾患の終末期医療・緩和ケア
急性期神経疾患の終末期医療・緩和ケアのシンポジウムでは、主に脳卒中や蘇生後脳症における終末期医療についての議論がありました。終末期医療のスペシャリストである荻野美恵子先生がACPに関して「60歳になったら全員やるなどの何らかの規則や常識が醸成されればよいのに」というお話は、非常に共感いたしました。その中で我々医療者の果たすべき役割は大きく、様々なガイドラインにも習熟しておく必要があると改めて感じました。
また神経集中治療医としてご活躍の野田浩太郎先生は、我々もよく遭遇する救急現場での葛藤についてお話いただきました。その中で神経予後評価におけるシステム化を推進されており、患者・家族のみでなく医療者側の負担も軽減できるというお話で感銘を受け、これが全国に一般化されていけばいいなと思いました。
「神経は再生しない」は嘘?
神経再生のシンポジウムでは、これまで再生しないと信じられてきた神経細胞の再生についての議論が交わされました。脳梗塞などで障害された脳へ、神経細胞が鎖状となって移動していくメカニズムについて、非常にきれいな微細3D画像を用いて示されていました。さらにその神経を誘導する技術を開発しており、今後の脳梗塞後遺症治療における臨床応用が期待されました。
アルツハイマー病の原因は、アミロイド仮説ではなく、神経再生の減少によるものだという、非常に議論を巻き起こすような発表もありました。この発表では、代謝異常などを来して再生力が落ちた神経細胞に対して、移植幹細胞がエネルギー・代謝物質などを供給することによって再生を促すというものでした。いずれにせよ神経の再生が進んでアルツハイマー病が治る時代が来ればという、明るい気持ちにさせていただきました。
多職種連携
多職種連携の話も興味深いものでした。日本難病医療ネットワーク学会と日本難病看護学会、神経難病リハビリテーション研究会の共同で行う難病支援学術コンソーシアムというものがあることを初めて知り、非常に重要な研究会であると感じました。
日本難病看護学会の理事をされている布谷摩耶先生は、潰瘍性大腸炎患者の支援を行う中で就労支援の重要性などを教えていただきました。印象的であったのは、看護師はアメーバのように「つなぐ」役割を果たすことが必要という話でした。難病患者さんには提供できる治療が限られているため、医療者としては果たすべき役割に限界を感じることがしばしばです。しかし、看護師が様々な患者と向き合う中で、ちょっとした体験談を患者や他の医療者と共有したり伝えたりする、つなぎの役目を果たすだけでも、患者にとって非常に心強く思うことがあるということを聞いて、眼からうろこが落ちたようでした。医師としてもその一旦を担う必要があると感じました。
リハビリテーションでは、パーキンソン病などの神経難病においてもその効果が実証されつつあるものの、実際の臨床ではリハビリテーションが均質化していないこと、重要な点をきちんと押さえて指導されていないことなどの問題を指摘されていました。
またそれとも関連しますが、医療の均質化のために、このコンソーシアムでは気軽に勉強できるe-learningのプラットフォームであるIDEL (intractable Disease E-Learning)を長年かけて作成してきており、今年中にはオープンされるとのことで、利用できる日を待ち遠しく思いました。
神経学の歴史
神経学の歴史のセッションでは、イラク戦争でのパイロットに若年性のALS発症者が多かったという驚きの事実も教えていただきました。また戦争だけでなく、旅客機パイロットにもALS患者が多いとのことで、まだわかっていないことも多いですが、非常に興味深く拝聴しました。
DE & I(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)
現在、世界中の様々な分野で取り沙汰されている、DE & I (diversity, equity and inclusion)ですが、医療現場においても重要な問題となっています。DE & Iとは、もともとのD & I(ダイバーシティ:多様性、インクルージョン:包摂性)にエクイティ(公平/公正性)という概念をプラスしたものです。
まずDE & Iという概念が、実は企業の収益性追求から出てきたということを教えていただき驚きでした。
第一三共では、多様な人材をまとめる一つの方法として、共通のcultureを共有するための方法を模索されていました。Core Behaviors月間というものを設定して、自身の経験を語り(ストーリーテリング)、対話し、自問するということを繰り返し行うことで、少しずつDE & Iに関する考えを共有していくというものでした。一流企業ではこのような取組がやはり進んでいるなということを感じましたが、実情としては難しい面もまだまだあるのだろうなとも感じました。
医療の現場では、現場における葛藤を皆が吐露されていました。例えば子育て世代の時短業務と代理診療する人の負担、それに伴う不公平感が問題となっていますが、「エクイティ:公正」というもののパラメーターが多すぎるために、実際には非常に調整が難しいことなど、なるほどというものばかりでした。不公平感を解消するためのインセンティブが何らかの制度として整備する必要がるのではないかとのご意見に非常に納得するものでした。また多様性とわがままの線引きをどうするのか、あまりに価値観の違う人材をインクルージョンすべきかなど、なかなか一筋縄ではいかない問題も取り上げられていました。
若手医師においては、近年は直線的なキャリアパスではなく、多様な働き方、目標があり、壮大な目標に向かって今を我慢するというものではなく、今現在やりがいを持って仕事できている状態が重要であるという指摘があり、その通りだと思いました。一方でシニアのバーンアウトの特徴としては、理想の研究時間が診療、管理業務などにとられることが問題視されており、中間世代の自分としては、これも納得のいく結果でした。
多様な患者に対する対応として、「医療×やさしい日本語」研究会があるということを知り、是非そちらも学んでみようと思いました。
まとめ
以上、日本神経学会学術大会2024に参加して思ったことを、ごく簡単にまとめてみました。DE & Iやデジタル技術の発展、多職種連携の推進など、現在の日本をとりまく問題点に様々なエキスパートが挑戦しており、頼もしく感じるとともに、自分自身もその中で果たす役割を考えさせられる会でした。
コメントを残す